最終回のProgressing WORLDは、ナショナルトレーニングセンターで開催されたセミナーや講習会などの内容を、同センターの伊藤穣氏、楢崎教子氏、杉田正明氏の3氏に報告し ていただいた。いずれの報告も競技力向上に関わる内容で、興味深い報告となっている。
◆第1回NTC-JISSテクニカルネットワークミーティングが開催される
第1回NTC-JISSテクニカルネットワークミーティングが6月18日(水)にナショナルトレーニングセンター(NTC)で開催された。このミーティ ングは、NTCが開所して以来、JISSとの初めての共催事業となるものであった。NTCのトレーニング、科学サポート、情報ネットワークおよびマネジメ ント機能を高め、様々なネットワークを構築しながらNTCの利活用をより促進させることを企図して開催されることになった。競技間連携促進をも目的として おり、今回は、NTCを拠点とする競技の専任コーチやテクニカルスタッフ、JISS研究員など約30名が参加した。
オープニングセッションでは、杉田正明氏(NTC拠点ネットワーク・情報戦略事業ディレクター)が、オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)におけ る高機能化プールの紹介などを交えて、NTCの設置が他国に与えるインパクトの大きさと、NTCに関わる全スタッフの責務を説いた。
久木留毅氏(JOC情報戦略部会部会長)は、長期的な競技力向上方策を実現する上でなぜ情報戦略が必要なのか、その重要性について、「スポーツ情報戦略」の定義とその役割を交えて解説した。
さらに、白井克佳氏と小笠原一生氏(JISSスポーツ情報研究部)からは、実際のテクニカル活動の事例紹介と基礎的スキル(映像ファイルの取扱い方法な ど)の解説、およびNTCテクニカルルームを有効活用するための具体的なアイディアなどが紹介された。
約3時間のプログラムではあったが、参加者側からも多くの質問や提案があるなど、双方向のディスカッションが展開され、参加者からは大変好評であった。 「NTC本格稼働」を強く印象づけるミーティングとなり、大変有意義なものとなった。なお、次回(第2回)は10月頃、北京オリンピックをテーマにとして 開催される予定である。
今後は、こうしたミーティングを通して、NTCと競技別強化拠点や地方とのネットワークについての理解を深めながらNTCの更なる役割についても考える機会としていきたい。
情報提供 : 伊藤穣(ナショナルトレーニングセンター 拠点ネットワーク・情報戦略事業アシスタントディレクター)
◆第2回エリートアカデミーJOCプログラム「生活力と競技力の関係」が開催される
第2回のエリートアカデミーJOCプログラムが6月19日(木)「生活力と競技力の関係」というテーマで開催された。
講師には財団法人 日本柔道育英会 講道学舎 常務理事の北田典子先生をお招きし、約一時間のプログラムを行った。
北田先生は、1996年アトランタオリンピックで女子柔道界初の金メダリスト恵本裕子選手(61kg以下級 住友海上火災)の指導者で、ご自身もエッセン世界選手権大会、ソウルオリンピックに出場し、61kg以下級の銅メダリストである。
本プログラムでは、あいさつがなぜ大切かを理解すること、掃除や整理整頓することがなぜ競技力向上に関係しているのかを考えること、「見られている」という自覚を持ち、どのような行動をとればいいのか考えることを目的とした内容であった。
講話の中で、講道学舎創設者の故・横地治男先生の書「日本一の桃太郎」について説明があった。1に体力、2に勉強、3に睡眠、4,5は柔道、6に食当、 7,8柔道、親に手紙も忘れまい(1997年3月1日)。つまり、体力と睡眠は健康を維持するためにとても大切であること、勉強は学生の本分なので社会人 となるために必要なこと、柔道は自分が好きでやっているので、当たり前のことを当たり前にやった上で柔道の稽古をすること、食当は当番制で食事の準備をし て、食器は自分たちで洗うことを意味している。
アカデミー生たちからは、「改めて競技と生活が深く関係していることが分かった」、「ふだんの生活がきちんとなっていないと、練習の時や試合の時などの 心の乱れにつながる」、「今、自分はまだまだ壁を登り始めたばかりで、いつか自分も世界の頂点に立ってみなさんに感謝したい」、「競技力と生活がどう関係 して、なんで生活までしっかりしないといけないのか分からなかったが、生活すべてが卓球につながると理解できた」の感想が寄せられるなど、意識が高まった様子がうかがえた。
本プログラムを通じて、人とのコミュニケーションが円滑になること、身の回りをいつも整理整頓し、物を大切にすることによって、競技に対する思い入れや 意気込みが向上すること、いろいろな人から応援してもらえるような選手になれるような自覚を持ち、行動できるようになる等の効果が期待される。
情報提供 : 楢崎教子(ナショナルトレーニングセンター エリートアカデミー事業 アシスタントディレクター)
◆第1回北京コンディショニングセミナーが開催される
6月24日(土)に第1回北京コンディショニングセミナーがナショナルトレーニングセンター(NTC)で開催された。
本セミナーの目的は、北京オリンピックに関わるさまざまな場面でのコンディショニングに関する課題についての全体を医・科学の視点から概観するととも に、メダリストや現場の指導者が有しているコンディショニングに関わる成功/失敗事例を共有すること、さまざま課題に関わる科学的知見も併せて提示し、北 京本番での具体的方策について議論し、具体的知見を導き出すことであり、全3回のセミナーを通して、北京大会までの間にわずかな差を生み出す知恵や工夫を 生み出すことに寄与することを目指している。これは、JOC情報・医・科学専門委員会 情報戦略部会が中心となり、北京対策プロジェクト、NTC拠点ネットワーク・情報戦略事業及びJISSの北京コンディショニング対策研究プロジェクトの4 者が連携協力して行われた。
阿部篤志氏(JISS スポーツ情報研究部研究員)の司会のもと、情報提供として、北京オリンピックのコンディショニングに関する文献紹介を相澤勝治氏(日本学術振興会特別研究 員 東京大学大学院医学系研究科)とバイネルト・トビアス氏(JISS スポーツ情報研究部研究員)が提供した。
相澤氏は、「Travelling to China for the Beijing 2008 Olympic Games:BrJ Sports Med42:321-326,2008」(北京オリンピックにおける中国への移動に関するレビュー)の論文を用い、オリンピックへの準備、 移動、選手村、競技会場での医科学情報を紹介した。インフルエンザ/鳥インフルエンザ、狂犬病、住血吸虫病などの危険性を説明し、ボート、カヌーの会場周 辺では蚊の大発生が予想されるので何らかの対策が必要とのことであった。
北京オリンピックへ向けたコンディショニングの課題として日本選手団のためのコンディショニングの方策については、開会式対策、北京の環境の順化、大気 汚染、水、普段通りの睡眠確保、暑熱対策/水分補給、個別性を考慮したコンディショニング等が重要であると指摘した。
トビアス氏は、ドイツ、アメリカ、イギリス、スイスなどの各国の北京オリンピックへ向けた様々な取り組みを説明したあと、チームビルディングについて、 あるオーストラリア競泳選手のアテネの事例を紹介した。その選手の日記からオーストラリアの取り組みの一端を分析し、紹介するという貴重な内容であった。
例えば、事前合宿におけるチームビルディングのアクティビティ(オリンピック初参加選手のためのカラオケ大会、ガールズデイ(メイク、イヤリング作り、 ハンドマッサージ等))や選手村の宿舎を自分の家にいるような雰囲気にする飾り付けがチームから配布された等である。オーストラリアでは、合宿中や選手村 で選手がストレスを感じないように実に興味深いチームビルディングが行われているといえる。
北京オリンピック本番まで45日と差し迫った時期に、約100名という予想外の参加者数がみられたことは、北京オリンピックに向けたコンディショニングに対する各競技団体の関心の高さをうかがわせるものであった。
情報提供 : 杉田正明(ナショナルトレーニングセンター 拠点ネットワーク・
情報戦略事業ディレクター)
■JISS's View
北京オリンピックの開幕が迫ってくるなか、ナショナルトレーニングセンターでは、各競技の強化合宿にも熱が入ってきた。それと並行して、ナショナルト レーニングセンターの中核拠点としての機能も高まってきている。特に、北京オリンピックに向けたコンディショニングセミナーは、JOCとJISSの連携の なかで、ナショナルトレーニングセンターを有効的に活用し、競技団体やコーチ、医科学スタッフが持つ「知」をチームジャパンとして共有させた事例である。
また、JOCエリートアカデミー事業は、エリートアカデミー生らの育成・強化のために、ナショナルトレーニングセンターを最大限に活用し、世界に目を向け、世界を意識し続ける継続的なチャレンジである。
ナショナルトレーニングセンターが完成し、スポーツ立国に向けての動きも加速するなか、一競技団体では越えることのできない壁に対して、チームジャパンとして継続的に協働していくことの重要性は極めて高い。
チームジャパンとしての総合力を試されるのが、北京オリンピックである。
山下修平(JOC専任情報・科学スタッフ) |
※本文は『月刊トレーニングジャーナル8月号』(2008/7/10発売) の「Progressing World 競技力向上の情報戦略」に掲載されているものです。
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